愛する人の、音がきこえる
監督:ミヒャエル・ハネケ
原題:Amour
今回、はじめてミヒャエルハネケの映画を見ました。
「ハネケはしんどい」と噂には聞いていましたが、上映時間127分のうち2時間はしんどかったです。私が行った映画館ではほぼ8割が60歳オーバーと思われる方だったのですが、ちらほらいた夫婦2人連れの方が、見終わった後どういう言葉を交わすんだろうと他人ゴトながら心配になってしまいました。人生の先輩のみなさん、これイイ映画ですけど夫婦でいかないほうがいいと思いますよ!
パリの高級アパートに住む音楽家老夫婦の妻が、ある日突然病気に倒れ手術がうまくいかず右半身不随になるところから、この映画の夫による老々介護がはじまるのですが、アパートの外が描かれるのはたった1度きり、病気に倒れる前日に夫婦で行ったピアノのコンサートだけ。そのシーンで2人の“文化度の高さ”と“現在進行形で存在する愛”(夫がふとした瞬間に「今日のキミは特別にきれいだね」という)が見られ、それを見ているからこそ、その後の介護生活で口には出さない2人のつらさを切々と感じることが出来ました。
しかし、あのコンサートシーン映されるのは、ステージではなく観客側定点画像。それをずいぶんな尺流すから、こっちが見られてる側かと錯覚する居心地の悪さありました。他にも、誰かが部屋で一人待たされ観客側を見てるだけのシーンがたびたびあり、なんだか映画の中に心の奥深いところをもっていかれる感じがして居心地悪かったです。
この映画で音楽がかかるのは、実際に映画中にあらわれるCDやピアノからだけで、ほとんど生活音しか聞こえないんですが、エンドロール全くの無音になるところで、映画の味わいものすごく広がりました。無音のエンドロール中帰っていく観客が出す音、それはまさしく生きている者の音。
映画中、ほかの部屋で鳴る音に夫がかけよるシーンがたびたび描かれるのですが、妻がとめた水の音、食器を洗う音、それらは愛する人が生きている音を彼とともに聞いていたんだなと気付かされました。