馬に、スイカに、わけわかんないけど好きでいっぱい
原題:白日烟火 Black Coal, Thin Ice
上映時間:106分
パンフレット:★★★☆☆(700円/出資者の要望でフィルムノワールものにしたものの、カット数とか撮影季節とかの出資者要望はことごとくはねのけているイーナン監督インタビューに漢気を感じた)
好きなシーンがいっぱいで、ずっと見ていたくなる映画でした。好きだけど、うまく言葉で説明できないたぐいの好きで、ディアオ・イーナン監督、この名前はおぼえておかなきゃなと思いました。
のちのちのなんの伏線にもなっていない唐突な絵(代表例:突如あらわれるアパートの1階で住人が飼っている馬)が、ぎりぎりあざとさを感じないレベルのくすぐり演出で、目や心に気持ちよかったです。特に好きなのは、序盤の殺人で、なぜか警察がスイカを食べながら捜査会議をしているシーン。捜査に使っている地図とかに、スイカの汁がおちまくってて、「え、なんでスイカ食べてる!?スイカ邪魔じゃ・・・」って気になるけど、いっさいその説明はない。そんな「なんで」を説明しないところが、なんだか気持ちよかったです。
ラストで打ち上がる白昼の花火、その花火を見上げるヒロインのウーの泣き顔とも笑顔ともつかない表情に、去年の「そこのみにて光り輝く」のラストシーンの池脇千鶴の表情を思い出しました。どちらのヒロインも状況だけみたら救われたとは言い難く映画のはじまりよりもどん底に落ちているように見える。でも、彼女たちの心はこのストーリーの中でどこか救われていることを感じさせらる。この花火のシーンはカメラがぐーっとせりあがって、花火を見る人の顔と花火がワンカットで撮られているのも美しかった。悲惨さも美しさも救済も転落もひとつの世界にあるという、すべてが映っているという感じがしました。
ちなみに、終盤で主人公ジャンが社交ダンスの練習場でラテンの曲をかけて踊り狂うシーンがありますが、社交ダンス経験10年の私から見ても、そのバックでタンゴの団体レッスンをしてる方々のダンスはけっこううまかったです。立ち姿もホールド(男性と女性の手の組手)もすっとしてて、ステップもピッとしてました。ジャンの踊りは型破りでしたが。だが、その対比がまたよかった。あと、サウナや氷で人の足元がすべるシーンがやたら多いのも好きだったな。