2015年11月20日金曜日

恋人たち

人の痛みにやさしくするのって、難しい

監督:橋口亮輔
上映時間:140分
パンフレット:850円★★★★☆(この映画が、ワークショップからキャスティングを決め、あてがきで脚本を書いた特別な作品であることがよくわかります)

橋口亮輔監督作品は「二十歳の微熱」をずっと前にレンタルビデオで見たことあったようなおぼえがあります。が、どんな作品だったかあまり記憶がないので、ほぼ今回が初鑑賞な感触でした。
この「恋人たち」は、自分にとっては正直感想を書くのに窮する作品でした。家に帰って、パンフレットを読んで「あぁ、そういうことだったのか」とようやくちょっと腑に落ちた感じ。自分の痛みを、生きる糧にする人、気付かないようにする人、抑える人、そういう3人が味わう絶望と生きていくこと自体への希望を描いたような作品です。
メインキャスト3人の中では、田舎で夫とその母と暮らす瞳子のエピソードが一番見ていて面白かったです。皇族オタクで暇さえあれば自分が雅子様を見に行った時のビデオを見ている彼女、「雅子様に会える(というか生でちょこっと見れるだけ)」ことでテンションあがった若い頃の自分をタバコをくゆらせながら少しだけ顔をゆるませてみている彼女の、今の彼女にはこれしか楽しみがないのか・・・という行き詰まり感は自分にもよく理解できるものでした。
姑が製品についていた粘着力の弱いラップを壁に貼り付けて再利用している様とか、旦那が肩をたたくと夜のお役目をしなきゃならない合図とか、すごいひどいことが起きてるわけじゃないのにどこにも行けないという深い絶望を感じる風景でした。そんな彼女が三石研扮する藤田とニワトリを追いかけた時にみせた、興奮した表情の乙女な感じ。腐った日常の中で、ささいな興奮がもたらされると、ああいう顔してしまうこともあるかもと納得感ありました。笑える部分も瞳子のエピソードが一番多かったです。このエピソードがなかったら、ちょっと作品として見ているのがつらすぎたかもしれません。
この作品は登場人物ほぼすべてが自分の痛みを持っているのですが、ほとんどみな他者の痛みには無関心でした。んな中、アツシの同僚で、「片腕がない」という目で見て周りが見てすぐ分かる痛みを持っている黒田の他者へのまなざしはとても優しかったです。アツシからの「なぜ、片腕ないんですか?」という質問に「ロケットで吹っ飛ばしちゃった」と答え、その答えに笑ったアツシに「笑うのはいいんだよ。腹いっぱい食べて笑ったら、人間なんとかなるからさ」と応じる黒田。自分の過去そして現在も存在する痛みを笑われても、それが相手の元気になるんならと差し出せる強さがかっこよかったです。だからといって彼のようになりたいかというと、彼のようになりたくもなかったりもします。だれかの痛みを積極的に減らそうと働きかけるのは、自分には荷が大き過ぎて。。。
離婚調停しにきたアナウンサーが相談相手の弁護士が泣いたと勘違いして、勝手に心が楽になっていたエピソードを見て、他人が自分の痛みに共感してくれたと思うだけで、人って救われたりするんだなと感じました。だから、せめて相手の話を聞いて「うん、うん」ってうなづいてはおこうと思いました。

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