2014年6月6日金曜日

青天の霹靂(96分)

監督:劇団ひとり
どん底の自分を、クールに演出するプライド

6月1日日曜の映画の日、WEB&店頭掲示板では売切表示でしたが、ダメ元でカウンターにかけあうと「バラの席なら最前列3席あります」とのことで超満員の劇場で鑑賞しました。
予告編から「お母さんが俺を捨てたんじゃなきゃ、俺の腐った人生は俺のせいになっちゃう!」と大泉洋がメソメソする話なんだろうなと思っていたので、「話の筋見えちゃってるし、あんまみたくないな~」と思っていたのですが、楽しんでみれました。
特に前半のタイムスリップする前の現代のパートが好きです。大泉洋の未来のないどんずまり感がよく伝わってきました。
オープニングの「かつて自分はエースやキングになれると思っていたのに、普通のカードにすらなれず、いまでは「2」の存在である」とトランプマジックをしながら寝ている客に語りかけるシーンのスムーズで粋な感じ。貧乏で将来に希望がなくてどうしようもないのに、それを粋に表現するこの男のプライド。彼のこじれたパーソナリティを感じました。スーパーでお惣菜が安くなるのを待ち構えていたのに、買うときには「ま~、安くても安くなくてもどっちでもいいんだけどね~」とかつぶやきながら買うところとか、そういう何気ないシーンにも彼のこじれ感がよく出ていました。
大泉洋が、自分の親の話をするタイミングとかもうまい。マジックバーの同僚と路上の嘔吐を片付けながら、「母親は男を連れて逃げて、父親はラブホテル勤務」と明かし同僚に「なかなかのもんですね」と言われ、まんざらでもない感じになる。今の現状を出生のせいにして「オレは悪くない」と言い訳出来ているから、なんとか彼はプライドを守って生きていられるのだと感じられました。
タイムスリップした40年前も、終盤までは回想シーンや音楽の過剰な演出なく、登場人物たちの心情がじっくりと丁寧に描かれていてよかったです。ただ、柴咲コウが入院する終盤くらいから、回想と音楽がうるさい感じになり、わかりやすく「泣かせ」にはいろうとしているのが残念でした。もっとクールな感じのほうがよかったな。
現代に戻ってきた大泉洋が実際のところ、「彼自身の現状としては何も変わっていない」のが、よかったです。あそこから彼ががんばるのなら、私もちょっとはがんばろうと思えました。
あと、映画の中の「笑えるもの」として出てくる劇中の喧嘩マジックが、映画館の観客たちにもちゃんと笑われてすごいなと思いました。お笑い芸人監督だと、劇中の「笑えるもの」演出にヘンな手癖がついていて突拍子もないことをするだけになってるのをよく見かけます。それだけに、この映画的な笑い演出を見、今後の劇団ひとり監督に期待を寄せてしまいました。せっかくなら、今度は泣ける要素少ないヤツが見たいな~。